Anthropicの調査で、2030年にAIが担えると予想する自分の仕事の割合は、米国就業者で平均28%、同社社員で75%。これは実際の自動化率ではない。AI利用経験と将来予測の関係から、管理職の人材育成を考える。
30秒でわかる / THE SIGNAL
2030年にAIが実行可能になると予想する現在の仕事の割合は、米国就業者で平均28%、Anthropic社員で75%。仕事でAIを定期的に使う人ほど将来の能力を高く見積もる傾向も見られた。ただし、これは回答者の予想であり、実際の自動化率や雇用減少を示す数字ではない。
同じAIを見ていても、未来の予想は違う
Anthropic Instituteが2026年10月16日に公表した「The AI expectations gap」は、米国成人10,980人とAnthropic社員1,334人への調査を比較したものだ。調査は2026年8月に実施された。 両グループは、現在のAIにできることについてはおおむね似た認識を持っていた。一方、将来の進歩の速さについては見方が分かれた。2030年までにAIがノーベル賞級の科学的発見を行えると予想した割合は、米国成人39%、Anthropic社員91%。これは将来の能力に関する回答者の予想であり、実現を保証するものではない。
自分の仕事では「28%」対「75%」
2030年までにAIが実行可能になると予想する、現在の自分の労働時間の割合は、米国就業者で平均28%、Anthropic社員で平均75%だった。さらに、自分の仕事の80%以上をAIができるようになると予想した米国就業者は5%にとどまり、Anthropic社員では半数を超えた。 注意したいのは、これは「AIが技術的に実行可能になると予想する割合」であって、「実際にAIに置き換わる割合」でも「失業する割合」でもないことだ。調査では、顧客が人との対応を望むこと、情報保護、信頼性、法律や責任などがAI導入の障壁として挙げられている。
AIを使う経験と、将来予測の関係
仕事でAIを定期的に使う米国成人の56%は、調査で示された8種類の仕事のうち少なくとも7種類を、2030年までにAIが熟練した専門家と同程度にこなせると予想した。米国成人全体では41%、AIを使ったことがない人では28%、Anthropic社員では96%だった。 AIを使う頻度と将来の能力への期待には関連が見られる。ただし、利用経験が期待を高めたとまでは断定できない。もともとAIに関心の高い人ほど利用している可能性や、職種・業務環境の違いもある。
管理職への示唆:研修だけで終わらせない
ここからはWORK SIGNALの考察だ。AIの使い方を教える研修は出発点になるが、現場での試行がなければ、できることも苦手なことも実感しにくい。 まずは機密情報や社内ルールに配慮しつつ、議事録の整理、情報収集、資料の構成案など比較的低リスクな業務で試す。成果だけでなく、修正にかかった時間や失敗例も共有する。AIが何を支援できるかを、宣伝文句ではなく自分たちの業務で検証することが重要だ。 調査が証明したのは「AI研修をすれば生産性が上がる」という因果関係ではない。だからこそ、試した結果を継続的に測定し、業務設計を見直す姿勢が必要になる。
若手育成:効率化で失う学習機会はないか
これも調査結果そのものではなく、WORK SIGNALの独自考察である。若手社員は資料の下書き、情報の比較、議事録作成などを通じて、判断の基礎を学んできた。AIがそれらを代行するなら、作業時間の削減と同時に、学ぶ機会をどう確保するかを考えたい。 たとえば、AIに下書きを任せても、根拠を確認し、採用する情報を選び、誤りを修正する役割は本人に残せる。作業をすべて人手で続けるか、すべてAIに任せるかの二択ではない。AIとの協働を通じて、判断力を育てる設計が求められる。
「AIができる」と「雇用が減る」は別の話
調査では、自分の仕事をAIがより多く担えると予想する人ほど、2030年の失業率も高くなると予想する傾向が、米国就業者とAnthropic社員の双方に見られた。ただし、これは予想同士の関連であり、実際の失業率を予測・実証した結果ではない。 興味深いことに、Anthropic社員の95%は、今後12か月で自社の従業員数が増えると予想していた。これは社員個人の見通しであり、Anthropicの公式な採用計画ではない。業務の自動化と人員削減は、同じ意味ではない。 管理職が考えたいのは、AIで生まれた時間を何に振り向けるかだ。顧客対応、品質向上、新しい挑戦、そして人材育成。技術の導入効果は、その後の組織の選択によっても変わる。
調査の限界と、読み方
米国成人調査はMorning Consultが2026年8月11〜23日にオンラインで実施し、人口構成に合わせて重み付けした。一方、Anthropic社員調査は8月9〜12日に行われた社内調査で、回答は重み付けされていない。オンライン調査ではインターネットを利用しない人が対象外となるなど、補正しきれない偏りもあり得る。 将来に関する設問では、米国成人の半数が2027年について、残りの半数が2030年について回答した。記事で扱う将来予想は、原則として2030年についての回答だ。仕事に関する数値は、米国成人全員ではなく就業者に限定した集計である。 AI開発企業の社員と一般の働く人は、職種、AIへの接点、技術情報へのアクセスが異なる。調査を日本の職場へそのまま一般化することはできない。また、発表元自身による研究であることを踏まえ、独立した調査や実測データとも照合したい。
WORK SIGNALの視点
AIをよく使う人の予想が、必ず正しいとは限らない。大切なのは、どちらの未来予測を信じるかではなく、自分たちの仕事で何が起きているかを確かめることだ。 管理職に必要なのは、2030年を言い当てる能力ではない。社員がAIを試し、失敗から学び、判断力を伸ばせる環境をつくること。AIの進歩が速い時代ほど、組織が学ぶ速度を意識したい。