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賃上げ企業92%。それでも、なぜ暮らしは楽にならないのか?

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厚労省の2026年賃金引上げ調査で賃上げ実施・予定企業は92.0%、平均改定率は4.4%。実質賃金の改善と生活実感の違い、企業の賃上げ余力、AI・マネジメントとの関係を一次情報から検証する。

30秒でわかる / THE SIGNAL

92%は企業の割合であり労働者の昇給割合ではない。8月の実質賃金は前年比+1.5%だが、過去の物価上昇の累積や個人差によって生活実感は異なる。給与を自分の数字に置き換えて考えよう。

賃上げ企業92%は「働く人の92%が昇給した」ではない

厚生労働省が2026年10月21日に公表した調査では、1人平均賃金を引き上げた・引き上げる企業の割合は92.0%(前年91.5%)。1人平均の賃金改定額は13,926円(前年13,601円)、改定率は4.4%(前年も4.4%)だった。

ただし、92%は企業割合であって、労働者の92%が同じ割合で昇給したという意味ではない。調査対象は常用労働者100人以上の民営企業で、3,668社を抽出し1,862社が有効回答。100人未満の企業は対象外だ。賃金改定率も、純粋なベースアップ率とは異なる。

実質賃金は改善している。それでも生活実感と一致しない理由

2026年10月7日公表の毎月勤労統計(8月速報)では、現金給与総額は前年同月比3.8%増、持家の帰属家賃を除く総合消費者物価指数で実質化した実質賃金は1.5%増で、8カ月連続プラスだった。総合指数を使う別系列では1.9%増・9カ月連続プラスとなる。比較には同じ系列を使う必要がある。

実質賃金が前年同月より増えても、数年前からの物価上昇による購買力の低下をすべて取り戻したとは限らない。家計の支出構成や個人の昇給額、税・社会保険料によって、生活実感も異なる。平均値の改善と個々の暮らしの改善を分けて考えたい。

平均4.4%を自分の給与に置き換える

月給30万円に4.4%の賃上げを単純に当てはめると、月額13,200円、12カ月で158,400円の額面増加になる。ただし、実際の賃上げ率が一律4.4%という意味ではなく、賞与・税・社会保険料の変化も含まない。下のシミュレーターでは月給と仮の賃上げ率を変更して、増加額を確認できる。

企業規模と業種で違う、賃上げを続ける力

賃上げには継続的な原資が必要だ。価格転嫁のしやすさ、付加価値、生産性、利益率、採用競争の状況によって企業の余力は異なる。全国平均の改定率だけで自社の妥当な水準を決めることはできない。

特に中小企業では、仕入れ価格や人件費の上昇を販売価格へ転嫁できるかが重要になる。人件費を単なるコストとして抑えるのではなく、事業の価値を高めながら賃金を持続的に引き上げる経営が問われる。

AIで仕事が速くなれば、給料も上がるのか

AI導入で作業時間が短縮しても、その効果が自動的に従業員の給与へ還元されるわけではない。削減した時間を新しいサービスや顧客対応に充てるのか、コスト削減に回すのか、賃金に配分するのかは経営判断だ。

AIの生産性効果を論じる際には、導入率や作業時間の短縮だけでなく、売上・付加価値・利益・賃金にどう結びついたかを追う必要がある。今回の賃上げ調査だけでAIが賃上げの原因だったとは言えない。

管理職に求められるのは、賃上げできる職場づくり

給与の決定権がない管理職でも、仕事量と報酬のバランス、評価の透明性、業務改善、成長機会には関与できる。賃上げと同時に負担が増えていないか、現場の生産性向上が適切に評価されているかを確認したい。

賃上げを一度実施することと、賃上げを継続できる組織をつくることは違う。従業員の納得感と企業の付加価値向上を両立させることが、これからのマネジメントの課題となる。

WORK SIGNALの視点:92%はゴールではない

賃上げの広がりと実質賃金の改善は前向きな変化だ。一方、今後は実質賃金のプラスが持続するか、100人未満の企業を含む幅広い職場へ波及するか、家計の可処分所得と生活実感が改善するかを継続して確認する必要がある。

賃上げが当たり前になる社会から、賃上げによって暮らしが良くなる社会へ。92%という数字は、その変化を検証する出発点だ。

一次情報:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/26/dl/08.pdf 毎月勤労統計:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2608p/dl/houdou2608p.pdf

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