米国DHSがDeepSeek関連製品の政府調達除外と撤去を命令。第三者製品への影響、米国の適用範囲、日本企業への示唆、AI調達で確認したい5項目を解説。
30秒でわかる / THE SIGNAL
2026年7月24日発出のDHS命令が10月20日に官報掲載。米国連邦政府文民機関の調達・システムが対象。第三者製品にも及ぶが、日本企業の利用が一律に禁止されたわけではない。モデル供給元とデータ処理、契約条件を確認したい。
米政府は何を決めたのか
AIツールを選ぶとき、回答の精度、導入費用、使いやすさを重視する企業は多い。しかし、業務システムにAIが組み込まれる現在、もう一つ確認したいことがある。それは、そのAIを誰が開発し、どのような条件で提供しているかだ。
米国国土安全保障省(DHS)は、DeepSeekおよび関連企業が開発したIT製品・サービスを連邦政府文民機関の調達から除外し、既存の情報システムから撤去する命令を出した。命令の発出日は2026年7月24日、官報掲載日は10月20日。10月20日に新たに禁止が決定されたわけではない。
法的根拠は2018年の連邦調達サプライチェーン安全保障法(FASCSA)。政府が調達・利用する情報技術の供給元に関わるリスクを管理するための枠組みである。対象は米国の連邦政府文民機関の調達と情報システムであり、すべての民間企業や個人に適用される一般的な利用禁止ではない。
注目すべきは第三者製品への影響
官報では、DeepSeek自身が提供する製品だけでなく、DeepSeekの実装を利用して開発された第三者の製品・サービスも、既存システムからの撤去対象に含まれている。調達除外の規定についても、第三者によるDeepSeekの実装が対象に含まれる旨の注記がある。
例えば、ある企業が販売するAIアプリが、自社開発の画面や業務機能を持ちながら、内部の文章生成処理には外部企業のAIモデルを使っていることがある。利用者から見えるサービス名と、実際に処理を担うモデルの開発元は一致するとは限らない。
もっとも、DeepSeekを何らかの形で参考にした製品がすべて自動的に禁止される、と広く解釈するのは適切ではない。命令の文言と、対象製品の技術的な実装、調達・利用の形態を個別に確認する必要がある。
AIの供給元を把握する必要性
従来のIT調達でも、ソフトウェアの開発元、保守会社、クラウド提供者を確認することは重要だった。AIでも基本は同じだが、複数の事業者が関わる構造が分かりにくい場合がある。
利用者向けアプリケーションを提供する会社、AIモデルを開発する会社、モデルを稼働させるクラウド事業者がそれぞれ異なる構成もある。その場合、サービスの販売元だけを確認しても、システム全体の供給関係は十分に把握できない。
さらに、AIサービスはモデルの更新や切り替えが頻繁に行われる。導入時に確認したモデルが、その後も同じとは限らない。契約時の確認に加え、重要な変更が発生した際に利用部門へ通知されるか、代替モデルへ切り替えられるかといった運用面も考えておきたい。
日本企業への直接的な影響と間接的な影響
今回のDHS命令によって、日本国内の一般企業や個人がDeepSeekを一律に利用できなくなったわけではない。米国の連邦政府文民機関を対象とした措置を、そのまま日本企業全体への禁止と説明するのは正確ではない。
一方、米国政府向けにシステムやサービスを提供する企業、その契約に関わる事業者は、調達要件との適合性を確認する必要が生じ得る。政府契約の条件や製品の構成によって、使用可能な技術に制約が及ぶ可能性があるためだ。
また、政府調達に直接関係しない企業でも、取引先が独自のAI利用基準を設けることは考えられる。ただし、これは一般的な取引管理上の可能性であり、今回の命令が日本の民間企業に直接課した新たな義務ではない。法令上の適用範囲、契約上の条件、自主的なリスク管理は区別して判断したい。
企業が確認したい五つのポイント
AIを導入・運用する担当者は、まず次の五点を確認しておきたい。
1.利用しているモデルを把握しているか。サービス名だけでなく、実際に処理を担うモデルの名称、開発元、提供事業者を確認する。
2.データはどこで処理されるのか。入力情報の保存先、外部送信、学習利用の条件を確認する。モデルの開発元とデータ処理場所は必ずしも一致しない。
3.モデル変更を把握できるか。提供事業者が内部のモデルを変更する場合、通知や変更履歴を確認できるかを契約・運用の両面から検討する。
4.取引先の利用条件に適合しているか。公共調達や特定顧客との契約では、使用する製品や供給元について制限が設けられる場合がある。
5.利用できなくなった場合に代替できるか。特定モデルに依存する業務を洗い出し、必要に応じて代替手段や移行手順を検討する。
これらは一般的なリスク管理の確認事項であり、今回の米国の命令が日本企業に直接義務付けたチェックリストではない。
管理職とIT部門の役割分担
AIの調達やセキュリティには専門知識が必要だ。しかし、業務上の影響を評価するには、そのAIを現場で何のために使っているかを理解することも欠かせない。
例えば人事部門が採用業務でAIを利用する場合、どのような応募者情報を入力するのか、利用停止時に選考業務を継続できるのかは現場の管理者も把握しておきたい。営業部門の顧客対応や経理部門の文書処理でも同様だ。
情報システム部門がモデルやデータ処理の技術面を確認し、利用部門が業務上の必要性や停止時の影響を評価する。両者の役割を明確にすれば、便利なAIを活かしながら管理上の見落としを減らせる。
今回の発表で分かること、まだ分からないこと
米国政府官報から確認できるのは、命令の法的根拠、対象となる政府機関、調達除外と撤去の基本的な範囲、例外申請の仕組みなどだ。命令には一定の例外を求める手続きも定められている。
一方、個別の民間製品がどの条件で対象となるか、各政府機関で撤去がどこまで進んだか、日本企業の取引にどの程度影響するかは、官報だけで一律に判断できない。また、この命令の存在だけを根拠に、DeepSeekを利用した特定企業で情報漏えいが発生したと断定することもできない。
今後は、米政府による運用上の追加説明や、政府調達に関係する企業への具体的な要求などが注目点になる。
WORK SIGNALの視点|AIを選ぶ力は、使い続ける力にもつながる
AIの導入が広がるほど、私たちはその便利さを自然に受け入れるようになる。それ自体は仕事の効率化にとって前向きな変化だ。一方で、便利なサービスの内部でどのモデルが動き、どの事業者に依存しているのかが見えにくくなる可能性もある。
今回の米国政府の命令は、AIの性能だけでなく、供給元や利用条件にも目を向けるきっかけになる。重要なのは、特定のAIを必要以上に恐れることでも、すべてのAIを同じ基準で排除することでもない。
何を使い、どのような情報を扱い、どのような条件で使い続けられるのか。それを理解したうえで導入を判断することが、企業にとってのAI活用力の一部になっていくだろう。
一次情報(米国政府官報、2026年10月20日):https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2026-10-20/html/2026-21447.htm