アブダビ政府は11月2日、政策・規制をAIが処理できる形式に変換する「Machine-Readable Government」をOpenAIと開始したと発表した。食品輸入を対象とする最初の試行はすでに実運用中。AIが許認可の定型審査を支援し、根拠規則を追跡可能にする一方、最終判断の責任は職員に残す。行政DXの焦点が、単なる文書要約から「ルールを扱う業務設計」へ移り始めている。
30秒でわかる / THE SIGNAL
アブダビ政府は11月2日、政策・規制をAIが処理できる形式に変換する「Machine-Readable Government」をOpenAIと開始したと発表した。食品輸入を対象とする最初の試行はすでに実運用中。AIが許認可の定型審査を支援し、根拠規則を追跡可能にする一方、最終判断の責任は職員に残す。行政DXの焦点が、単なる文書要約から「ルールを扱う業務設計」へ移り始めている。
規制を「検索する文書」から「AIが扱えるルール」へ
アブダビ政府メディア局は2026年11月2日、OpenAIとともに「AI-native Machine-Readable Government(MRG)」の取り組みを開始したと発表した。政府が定める政策や規制のうち、範囲を限定したルールを機械可読形式へ変換する。AIはそのルールを使い、許可証や証明書の発行に関係する定型的な規制適合性の確認を職員に代わって一部支援する。発表は「世界初」と位置付けるが、これはアブダビ政府の説明であり、世界各国の類似制度を網羅して比較した独立認定ではない。単にPDFをAIに読ませるのではなく、判断に必要な規則を整理して扱う点が焦点だ。
食品輸入のパイロットはすでに実運用中
初期パイロットはアブダビ農業・食品安全庁(ADAFSA)の食品輸入を対象とし、政府のデジタル行政を所管するDepartment of Government Enablement(DGE)が主導・統治する。政府公式発表はこのパイロットを「already in production」と記載しており、構想だけではなく対象業務で稼働していることが分かる。ただし、食品輸入のすべての審査がAI化されたとは発表していない。AIの推論処理はUAE国内のデータセンターにあるGPUで行うとされるが、これは全データの保存・転送・閲覧条件まで一律に保証する説明ではない。
重要なのは「根拠を追えること」と「責任を残すこと」
政府発表によれば、AIが支援する適合性審査は、根拠となる規則へ遡って確認できる設計とする。また、最終判断の監督と説明責任は政府職員が保持する。AIが判断案を出しても、その理由を確認できなければ行政手続きの透明性は損なわれる。規則の版管理、例外の扱い、誤判定の訂正、権限のある職員による承認を切り分けることが、他の許認可業務や企業のコンプライアンス業務に応用する際の検討事項となる。これらの運用上の論点は公式発表の機能説明から導く実務的示唆であり、同政府がすべての機能を実装済みと表明したものではない。
日本の行政・企業への示唆と、まだ分からない効果
日本の自治体、輸出入企業、法務・品質保証部門でも、規制文書を探す作業と、具体的な案件をルールに照らす作業は異なる。機械可読なルールを用意し、適用根拠と最終承認者を記録する方式は、審査支援AIを監査可能にする一つの方向性だ。ただし、アブダビの制度・データ環境を日本へそのまま移せるわけではない。公式発表には、処理時間の短縮率、誤判定率、導入費用、対象案件数、他分野への拡大時期が示されていない。現時点で確認できるのは、限定された食品輸入パイロットの稼働と、規則への追跡可能性・職員責任を掲げた設計方針である。