日本銀行が決算説明会の発言から企業の政策不確実性を測定。設備投資・雇用との関係と、管理職が意思決定の背景を捉えるための視点を解説。
30秒でわかる / THE SIGNAL
日銀の2026年10月22日公表研究は、企業の決算説明会から政策不確実性を測定し、設備投資・雇用の減少との関係を分析。統計的な関係であり、個別企業への因果を断定するものではない。
企業の決算説明会から不確実性を測る
企業が設備投資や採用を見送る理由は、必ずしも資金不足だけではない。税制や規制、金融政策の先行きが読めなければ、経営者は判断を保留することがある。日本銀行が2026年10月22日に公表した研究「企業の決算説明会テキストを用いた経済政策不確実性の考察」は、日本企業の決算説明会の発言記録から経済政策の不確実性を測る「企業EPU」を構築した。
EPUはEconomic Policy Uncertaintyの略称。従来は新聞記事などを使って計測されてきたが、今回の研究は企業自身の発言に注目した。ニュースで話題になった政策と、企業が実際に事業計画のリスクとして感じる政策は、必ずしも一致しない。決算説明会には業績だけでなく、今後の投資や事業環境への見方が表れるため、経営上の認識を読み取る手がかりになる。
企業が敏感なのは規制や税制・財政政策
日銀の研究によると、企業EPUは新聞記事ベースのEPU指数や株式ボラティリティ指数と比べ、規制関連や税制・財政政策を巡る不確実性の高まりをより強く反映する傾向が見られた。企業がこうした事業環境の変化に敏感である可能性を示している。
例えば設備投資を検討する企業にとって、規制変更は必要な設備や事業の採算を左右することがある。税制の変更も投資のタイミングや収益見通しに関わる。金融市場で大きく報じられるテーマだけでなく、現場の事業判断に直接響く制度上の変更を見ておく必要がある。
ただし、どの企業にも同じ政策が同じ程度に影響するわけではない。業種、事業規模、海外取引の有無などで重要な論点は異なる。
不確実性と設備投資・雇用の関係
研究者は時系列モデルを用いて、企業EPUと設備投資、雇用の関係を分析した。その結果、他の要因を考慮しても、企業EPUが上昇すると設備投資や雇用が減少する関係が示された。企業の発言から作られた指標が、経済活動を理解するための追加情報になり得るという結果だ。
この点は重要だが、解釈には注意が必要である。統計的な関係が確認されたからといって、個別企業の採用減少の原因が必ず政策の不透明感だと断定できるわけではない。需要、資金調達、労働力不足、競争環境など、実際の判断には多くの要因が重なる。
企業の発言を分析することで、新聞や株価だけでは捉えにくい認識を補える可能性がある。一方、単一の指標だけで景気の先行きを決めつけるべきではない。
管理職が確認したい三つの問い
今回の研究は、企業に採用や投資を控えるよう提言したものではない。管理職にとっての実務上の示唆は、意思決定の背景を分解して考えることにある。
第一に、設備投資が延期されたとき、理由は予算不足なのか、需要見通しの悪化なのか、それとも制度変更を待っているからなのか。原因によって次の打ち手は異なる。
第二に、採用計画が慎重になったとき、必要な人材そのものが変わったのか、一時的に判断を保留しているのか。後者なら採用要件の整理や育成計画の準備を進められるかもしれない。
第三に、どの前提が変われば判断を見直すのか。経営会議や部門会議で条件を共有できれば、現場は単に待つのではなく準備ができる。
これらは研究結果を踏まえたWORK SIGNALの実務的な解釈であり、日銀が直接推奨した施策ではない。
研究結果の限界と読み方
決算説明会のテキストを使う以上、分析対象には偏りが生じ得る。決算説明会を開催し、発言記録を利用できる企業と、そうでない企業では規模や業種の構成が異なる可能性がある。したがって、今回の指標はすべての日本企業の心理を直接測ったものではない。
また、決算説明会での発言は投資家などに向けた対外説明であり、経営判断の全過程を記録したものではない。研究の時系列分析から、個別企業の将来の投資額や採用人数を正確に予測できるわけでもない。
研究の意義は、企業の言葉にマクロ経済の変動を説明する有用な情報が含まれると示した点にある。景気判断では新聞、金融市場、企業調査、実際の経済統計など、異なる資料を多面的に確認したい。
WORK SIGNALの視点|判断が止まる理由を見つめる
仕事の現場では「投資が止まった」「採用が進まない」「新しい施策が始まらない」といった結果が目につく。しかし、同じ結果でも背景は一つではない。情報が足りないのか、見通しが立たないのか、判断基準が曖昧なのかによって、必要な対応は変わる。
今回の日銀の研究は、企業が抱く不透明感という数字だけでは見えにくい情報を、決算説明会の言葉から読み取ろうとした。企業の設備投資と個人の行動を同一視はできないが、結果だけで判断せず、何が意思決定を難しくしているのかを考える姿勢はマネジメントにも通じる。
重要なのは、不確実性があるから何もしないことではない。変えられない条件と、自分たちで準備できることを分け、次の判断に備えることだ。組織が動きやすくなるために、管理職は必要な情報と判断の前提を丁寧に共有したい。
一次情報:日本銀行(2026年10月22日)https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2026/rev26j14.htm